教育・しずおか:芸術家や技能士招き授業 プロの指導、貴重な経験 /静岡

7月11日11時0分配信 毎日新聞

 芸術家や各職種の技能士が小中学校などに出向いて児童、生徒を直接指導する授業が広まっている。文化庁が主催する「学校への芸術家等派遣事業」と、県が県技能士会連合会の協力で取り組んでいる技能体験学習「WAZAチャレンジ教室」を報告する。【安味伸一】
 ◇彫刻家から学ぶ
 「水の中にろっ骨とか頭がい骨が浮いている感じがしない? 目をつぶって体を揺すってごらん」
 6月23日、伊豆の国市立大仁北小学校体育館。6年生41人に市内の彫刻家、鈴木丘(きゅう)さん(61)が促す。6年生の生徒41人に与えた課題は、水粘土で作る友達の「首像」。子どもたちに粘土を持たせる前に教えたのは、人体の構造だった。
 「外側だけを見ても分からない。中をしっかり観察しないと。人間の体に水はどれぐらい含まれているか、分かるかな」。数人が元気よく手を挙げた。「63%」と正答した男子は「テレビでやってた」と得意げだ。
 頭の解剖図を前に、鈴木さんが説明した。「顔はね、頭全体の5分の1ぐらいの面積しかないんだよ」。耳の穴近くにある骨の出っ張りからあごの先、鼻の頭、額の生え際まで、それぞれの距離は両耳の小突起の間隔と一致する。美術系の大学で教える美術解剖学の基礎だ。
 首像作りは、骨組み作りから始まった。木の板に立てた心棒に、割りばしを横にして縄でくくりつけた。児童はさっきの指導を生かして、割りばしの両端が、ちょうど耳の位置に来るようにイメージする。互いの顔をじっくり見ながら、粘土を張り付け、輪郭や髪形を整えた。
 全員の首像が2時間半後、完成した。田辺凜君の首像を作った大川大貴君は「りりしい目とまゆ毛で、目と口が難しかったけど、ばっちりできた」と話し、出来上がった作品を笑顔で眺めた。鈴木さんは「手と目で体験することが図画工作で一番、大事です。首像は彫刻の基本で、友達の作品から多様な答えと刺激を受け、発想を広げることができる」と語る。
 音楽、美術、伝統芸能をはじめとする芸術家等派遣は小中高校などが対象だ。文化庁によると、08年度は複数校の合同開催も含めて950カ所(予算1億8000万円)、今年度は1330カ所(2億700万円)。県内の実績は08年度52校。今年度は50校に加えて13校が2次申請中だ。
 これまで派遣する芸術家には「地域出身」という条件があり、招こうにもハードルが高い学校もあった。この条件も4月から外され、学校の選択の幅は広がった。
 ◇職人の技に挑戦
 プロの技能士が、ものづくりを体験させる特別授業「WAZAチャレンジ教室」が今月7日、沼津市立門池中学校で開かれた。アートモザイク(タイル)など五つの課題に、2年生109人が挑戦。
 30センチ四方の板に、生徒が描いた下絵を写し、好きな色のシートをナイフで切り張りする「フィルム切り文字」では、県広告美術業協同組合の技能士5人が「先生」を務めた。アニメのキャラクターを8色で表現した野秋朋伽さんは「プロの材料と道具で、いい経験ができた」とにっこり。
 02年、同じ課題の指導を受けた岡田朋子さん(20)は今、多摩美術大2年生。この教室をきっかけに、07年の技能五輪国際大会・広告美術職種に日本代表として出場し、敢闘賞をつかんだ。同組合技能士会長の杉山守雄さん(68)は「岡田さんはみなさんの先輩です。自分の個性を生かしてほしい」と語りかけた。
 WAZAチャレンジは00年度から始まり、今年度は小中学校など計34校約2200人がプロの指導を受ける。

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