「安心、安全」が一番の目的 民営化4年それが浸透してきた NEXCO西日本・石田会長に聞く

9月30日11時25分配信 J-CASTニュース

「民営化4年」を振り返るNEXCO西日本・石田孝会長
 「民間にできることは民間に」をキャッチフレーズに、2005年に行われた「郵政選挙」の大きなテーマの一つは「道路公団の民営化」だった。高速道路各社は09年10月1日に民営化から5年目を迎えるが、高速道路はどのように変わり、これからどんな方向を目指そうとしているのか。西日本高速道路(NEXCO西日本)の石田孝会長に聞いた。

■「お客様の不便をなくそう」の1番目はトイレ

――民営化後、何が一番変わったと思いますか。

  石田 仕事について責任意識が出てきたことですね。私は民間企業のあるべき姿として「自由、公正、博愛」の3つの規範を掲げていますが、4年近くやってきて、この49.5%ぐらいは達成できたのではないでしょうか。あと3年ぐらいしたら、90%程度にまで持っていける、と期待しています。まだまだ、昔の道路公団の体質が残っていて、「決められたことは、過剰なほどにきちんとやる」のですが、自由な発想で物事を進めるのは苦手なようです。

――具体的に、どのような点が目に見えて変わりましたか?

  石田 分かりやすいのは、サービスエリア(SA)・パーキングエリア(PA)のお手洗いでしょうね。「公衆便所」から脱却して、デパート以上ホテル並のトイレに、数年以内に引き上げることを目指しました。ここを改善していかないと、お客様に満足を与えられないと考えました。約40%をお年寄りにも使いやすい洋式便器にし、その内の95%に洗浄機付便座を整備しました。女性に喜ばれるパウダールームも86箇所に設置しました。まだまだ進めます。

――民営化前のトイレはどんな状態でしたか。

  石田 いわゆる「公衆便所」ですよ。汚い、臭い。原因は、タイルの目地の太さにあったんですね。太いとカビが生えたりして、くさくなるのです。で、目地をどうして小さくするかに腐心しました。最後は「ラバータイル」というものを導入して、目地自体をなくすことにも成功しました。水がたまらなくなって、モップをかけるだけで水分が除去できるようになりました。また、吹きっさらし状態も問題でした。そうならないように、入り口に自動ドアを付けました。お客様から「ATMが置いてあるんですか?」なんて声をいただいたこともありましたね。

――他に「お客様を考える」という観点から実現したものはありますか?

  石田 結局、「お客様の不便をなくそう」につきるのです。1番目はもちろんトイレなのですが、2番目はSA・PAの店舗の営業時間です。車は24時間走っているのに、大半の店は20時には閉まる。これでは困ります。そこで、24時間営業のコンビニエンスストアをつくりました。すでに33店舗できています。さらに、メディカルコーナーも100店舗に設置し、ドラッグストアも4箇所オープンしています。車の中で具合が悪くなった人のために考えたことです。 さらに、「不便になりそうなこと」を食い止めようとも努力しています。元々ガソリンスタンドは合計82箇所あったのですが、原油価格の高騰や競争の激化で運営店から「撤退したい」と言う声が相次いで、71箇所にまで減りました。それでも撤退の要望が消えない。ただ、71という数は守りたいと思っています。詳細については検討中ですが、「他社と合弁で我々がガソリンスタンドを経営する」ということに踏み出そうとしています。ガス欠はお客様にとって不安ですからね。特に高速道路の初心者の方などに結構ガス欠は多くて、最近は増加傾向です。

――民営化では、全体の経営効率を上げることが求められていたように思います。

  石田 真面目な集団なので、「これをやるんだ」と決めた分に関しては、効率は上がっています。ただ、「100%の安全・安心」をお客様にお届けすることが私たちの一番の目的、価値であることは変わりません。それで、いくつかプロジェクトを作りました。ひとつが「逆走防止プロジェクト」。カーナビに情報を入れてGPS機能で検知し、逆走した際に、画面と音で警告を出す仕組みです。日産自動車さんと共同で開発にあたりました。2009年2月にはSAでデモンストレーションも行っています。逆走するとシートベルトが引っ張れられるようにして、物理的に伝える、というやり方も検討しています。全国で年1000件近く逆走事故は起こっていますので、対策は急務です。また、これまでは「路面が壊れたら、いかに速く修復するか」という点に重点を置いていたのですが、最近では「どうすれば壊れないか」という「予防」に力を入れています。

――効率化という観点からすると、いわゆる「ファミリー企業」については、どのような関係を築いたのですか。

  石田 われわれは「パートナー」と呼んでいます。道路補修を計画立案するのが弊社で、そのサポートをエンジニアリング会社が行います。実行するのがメンテナンス会社、という仕組みでした。ただ、これだけだと現場にやる気が起きない。「メンテナンス会社が自分で計画できるようにしよう」ということで、エンジニアリング会社とメンテナンス会社を合併させ、弊社から数百人単位でエンジニアリング・メンテナンス会社に出向させるといった人事交流も進めています。重複作業も少なくなって、効率化も進んでいます。社会貢献事業を進める時も、理念に共感してもらえましたし、比較的早く「融合」が進んでいると思います。

■日本を世界から信頼される国にしたい

――NEXCO西日本は、社会貢献活動にも熱心ですね。

  石田 西日本を元気にしたい。また、恵まれない国をサポートしていきたいと考えています。「必要以上の利益は取らない。損はダメだけど、ある程度利益が出たら、残りは社会に還元する」。昔の経営者は、こうしたマインドを持っていたはずですが、今は少なくなっているように思います。社会に対する奉仕です。日本を世界から信頼される国にしたいですね。日本が尊敬されなくなったら、「国籍無き世界の『根無し草』企業」になってしまう。そうなると、会社に対する信頼感もなくなってしまうでしょう。

――国境を越えた、スケールが大きい話になりますね。

  石田 07年からアフリカのスーダンでマラリアの治療に奔走する日本人医師のNPO法人に1000万円の寄付を始めました。リーマンショック以後、経済環境が急に厳しくなって、NPO法人から「NEXCO西日本さん、(支援の継続は)大丈夫でしょうか」という問い合わせがあったのですが、「大丈夫。安心してください」と答えました。「会社の経営が不調になったらやめる」というぐらいなら、最初からやらない方がいい。相手に迷惑がかかります。絶対に継続しないといけません。もっとも、社会貢献は海外中心というわけではありません。国内でも「産科医学生奨学基金」や福祉車両、車椅子の寄贈などSA・PAのテナントさんと協働していろいろやっています。

――SAの店舗にも、社会貢献のマインドが出てきた、と聞きます。

  石田 不景気で一般の小売店の売り上げが落ちる中、サービスエリアは4~7月で16%売り上げが伸びています。これは、いわゆる「1000円高速」のおかげなのですが、もとはといえば税金です。その分、社会に還元しないといけない。毎月第一日曜日にSA・PAのほぼ全商品が2割引になる「お客様感謝DAY」を行ったり、トイレを改善したり、バリアフリー化を進めたりしているのも、その延長です。このように、弊社の負担で取り組む社会還元とは別に、四国などの店舗では、第3日曜日に多くの商品が2割引になっています。西日本高速道路のSA・PAでは、多くの店舗(テナント)さんに、「社会に尽くす」という理念に共感していただいていて、テナントさんが独自に実施する還元策が広がっています。嬉しいことです。

――「公的な企業」という意識を強くお持ちのようですね。

  石田 私はそう思っています。「利益が出たから、みんなで山分けしよう」というのは違う。「皆さんに使っていただいて、我々の生業は成り立っている。社会と違う行き方をするのはやめよう」ということです。儲かったからといって、それを使って急に賃上げをするようなこともありません。この方針には社員も納得してくれています。

――ところで、新政権が打ち出している「無料化案」についてはさまざまな意見、見方が出ています。どのような問題点がありますか?

  石田 「救急輸送に役立つ」というのは高速道路の大きな利点です。例えば大分県のある街では、国道を使うと1時間半かかっていたものが、1時間で搬送できるようになりました。料金が下がって渋滞が起きると、この利点がなくなってしまいます。助かる命が助からなくなるのではと危惧しています。今後、政策を具体化するのであれば、その影響を十分考慮し、補完策も合わせて実施していかれることを期待しています。少なくとも、「渋滞が起こらない程度の値下げ幅にする」「ドクターヘリを置く」といった政策を同時に行う必要があるのではないでしょうか。
   また、メンテナンスもお金がかかります。その財源をどうするのかということも考え合わせて、十分な議論が必要だと思いますね。

――民主党は「高速道路の建設は、現状で計画されているほどには必要ないのではないか」「建設する分は、一般会計から持ち出せば良い」という議論もしていますね。

  石田 もう少し、大きな視野で考えて欲しいと思います。東京一極集中の今、疲弊しつつある地方を豊かにしようと思えば、利便性は保たないといけません。大都市と地方とでは、税のあり方は違ってくるはずです。地方がひとつひとつ、共同体を形成できるようにしないといけない。そのためのインフラが高速道路です。「地方の豊かさを向上させよう。その結果、精神的に豊かな社会を作ろう」という考え方が議論の根底になければならないと思います。

――知事の側は、そのような立場の人が多いようですね。

  石田 大阪の橋下知事は、激烈な言葉で地方の重要性や活性化を訴えていますし、宮崎の東国原知事も、高速道路の重要性を力説しています。毎年の恒例行事なんですが、1月5日朝に大分県の広瀬知事と会って、その足で電車に乗って宮崎県に向かうんです。会談では「我々はこれをやりますから、県はこれをしてください」という話をするのですが、このお二人の知事は、約束したことを確実に履行しようと最大限の努力をしてくれます。
   一番大きな問題は土地の取得なのです。土地を収用する権限は知事が持っています。道路建設計画が明らかになった後で、補償金を目当てに土地を買って木を植える「過密植栽(密植)」が相次いでいるのですが、東国原知事は現場視察をして「ここが原因で用地買収が進まないのか。けしからん」と、理解を示して下さっています。こうした障害は1年で半分ぐらいになりました。

――今後、民主党政権に、どのようなことを期待しますか?

  石田 「民」が「主」ですから、その名のとおりの政策を展開して欲しいです。「政治屋」ではなく「政治家」として、「政(まつりごと)」をやって欲しいと思っています。

石田孝さん プロフィール

いしだ・たかし
1943年福岡県北九州市生まれ。66年神戸製鋼所入社。取締役、専務執行役員、都市環境カンパニー執行副社長を経て2002年コベルコ建機社長。04年会長兼コベルコクレーン社長、05年西日本高速道路会長CEO、05年西日本高速道路サービス・ホールディングス会長CEO兼務。座右の銘は「あるがままに」。

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