「101回目のプロポーズ」 千葉県浦安市

■愛の奇跡がトラック止めた

 1991年にフジテレビ系で放送され、最高視聴率36.7%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)を記録した連続ドラマ「101回目のプロポーズ」。さえない中年男を演じる武田鉄矢が「ぼくは死にましぇーん」と叫んで道路に飛び出し、トラックを止めた場面は鮮烈だった。

 会社員の星野達郎(武田)は、チェリストの矢吹薫(浅野温子)と見合いをし、好きになる。死別した婚約者を忘れられない薫だったが、次第に達郎にひかれていく。でも、越えなければならない壁があった。好きになった人を再び失うことへの恐怖だ。

 それを知った達郎は道路に飛び出す。トラックが近づいてくるが、達郎は仁王立ち。ひかれる寸前でトラックは急停車し、よけていく。達郎は「あなたが好きだから僕は死にません。僕が幸せにしますから」と絶叫。薫も感極まって泣きながら「あたしを幸せにしてください」。

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 撮影に使われた道路は、千葉県浦安市入船3丁目の「浦安シンボルロード」だ。

 片側3車線、幅50メートル。JR新浦安駅をはさんで約920メートルしかないが、建設費は約9億8千万円に上った。

 中央分離帯に松などを植え、歩道は高級感のあるれんがやタイルで舗装するなど「グレードの高い道路」(浦安市道路管理課)にしたからだ。

 国の補助金で市が、埋め立て地に「海浜都市の顔」として整備した。ロケをしたのはできて間もないころだ。

 近所の主婦(72)は「当時は周りが開発されてなく空き地ばかり。通る車の数も少なくて、運転の初心者が練習に使っている道路だった」と振り返る。

 担当プロデューサーだったフジテレビのデジタルコンテンツ局長、大多亮さんは「トラックを何度も走らせることができる道路を探したら、たまたま郊外のあの場所になった」と話す。

 武田は当初、この場面に難色を示した。「大人にしては幼すぎる行動ではないか」というのだ。大多さんは「トレンディードラマはこういうことをやるものなんです」と押し切ったという。でも、本番は「武田さんの演技はあまりにも見事で、ぼうぜんとしたほどでした」。

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 撮影から約20年。周囲には高層マンションやホテルが立ち並んだ。車の通行量も多い。シンボルロードを海の方向に進むと、ヤシの木やおしゃれな建物が並んで、米国の高級住宅地ビバリーヒルズのようだ。

 愛の力がトラックをも止めてしまう。そんな奇跡が起きそうな現実離れした空気が、今もそこに漂っている気がした。(赤田康和)

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