元床屋で公開制作展

横浜橋通商店街から路地を入ると、築52年の木造の一軒家がある。元は床屋だったこの家は、画家や音楽家らがアトリエを構える「横浜橋アートピクニック トコ」(横浜市南区)。25日まで開かれている展覧会は、生活感にあふれたこの場所で絵画がうまれる過程も見せる試みだ。

 公開ドローイング制作展をしている小田富美子さん(28)は、多摩美術大出身の画家。2008年12月、トコの誕生と同時に2階にアトリエを構えた。専門の油絵制作は一人の方が集中できる。しかし最近、だれかとの接触で自分の内面が見えると気付いた。クレヨンや鉛筆で描く開放的な作品づくりにも興味が出てきたという。

 「活気ある商店街に近く、演劇関係などいろんな人が始終出入りして、ここは人の気配が濃い。場所って、ものづくりに影響します」

 床屋時代の名残で、外壁はタイル張り。通行人の目の高さに横長の窓がある。近所の小学生が壁にボールをぶつけてくるし、窓からおじさんがのぞき込む。そんなだれかの存在自体が刺激だという。

 油絵3点のほか、会期中に絵を描き足し、オブジェを加え、最終日まで刻々と展示が変わっていく趣向。24日はダンスと絵画制作の“共演”もある(午後6時から、ドリンク付き千円。問い合わせはトコ=045・516・9751)。展覧会は無料、正午から午後7時まで。月曜休み。

 20年以上空き家だったトコは、「アーツコミッション・ヨコハマ(ACY)」の芸術不動産事業の最初の事例だ。ACYは横浜市と市芸術文化振興財団の共同運営で、空きが目立つ関内周辺地域の不動産物件を創作の場に転用する事業を手がける。現在は、同市中区長者町の歓楽街の真ん中にある古い雑居ビルの再生に取り組んでいる。

 老朽化などで商業利用が難しくても、アーティストには関係なし。芸術とは無縁の環境が、新しい試みを促す効果もあるようだ。

(織井優佳)

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