新教育の森:神奈川 30年ぶりトイレ掃除復活--10年度から横浜市 /神奈川

3月13日13時1分配信 毎日新聞

 ◇「公共心」育成できる?
 ◇全市立小・中・高500校/「普通に戻った」の声も
 横浜市の全市立の小・中・高校約500校(特別支援学校を除く)で10年度から、児童・生徒のトイレ掃除が復活する。約30年ぶりだけに感染症への不安も聞かれ、「社会をよくしようとする公共心の育成」を掲げる市教育委員会は対策に躍起だ。他の政令指定都市では実は当然の「子どものトイレ清掃」。トイレを磨けば心も磨かれる?【野口由紀】
 ■「すっきり」
 「キン、コン、カーンコーン」
 給食時間の終わりを告げるチャイムが鳴ると、ほうきやちりとり、背丈ほどある柄付きブラシを、子どもたちが一斉に手にする。タイル張りの床を丁寧にはき上げ、便器だってブラシでシャコシャコ。鏡もぞうきんでピカピカに磨いた。1月からトイレ掃除をするモデル校の市立折本小学校(都筑区)。3年の武田理奈さん(9)は「汚いって思わない。慣れてきちゃった」。別のトイレを担当した5年の内藤龍海君(11)らも「最初はやり方が分からなかったけど、すっきりする」と笑った。
 ■器物損壊4ケタに
 こうした風景はかつては他校でも見られたが、市教委児童・生徒指導課によると、昭和40年代ごろから子どもの姿が次第に消えた。今はどこも85年の通知でトイレ掃除が「業務」とされた学校用務員が清掃しており、例外的な市立中3校でも生徒は便器に触れず床をはくだけだ。
 市内の学校ではトイレなど施設の器物損壊事件が増え、07年度は1028件と初めて4ケタの大台に。一方、他の政令市では「小中高問わず掃除をさせていないお仲間は見つからなかった」と斎藤宗明課長。物を大切にする意識が薄れたのが理由と考え、トイレ掃除復活を打ち出した。
 ■感染症予防対策
 ところが学校現場から、ノロウイルスなどの感染症が不安だという声が上がった。市教委はマスクと手袋の義務化を検討したが、昨年10~11月に視察した相模原、南足柄両市から「大げさな」と苦笑された。南足柄市の子どもたちは素手でたわしを持ち便器を洗うが、感染症にかかったという報告はない。
 結局「場所を問わずリスクはある」として義務化を見送り、手洗いとうがいを徹底することにした。ただ教員ら大人が事前に見回り、嘔吐(おうと)物や下痢便などがある場合は掃除させないことにした。
 ■汚さなくなった
 モデル校の折本小は「復活」前の昨年12月、保護者へのプリント配布やPTA説明会など慎重に理解を求めた。反対の保護者はいなかったが、衛生面の心配から手袋を使うか議論になった。費用がかかるが効果は不明確なので、手袋は使わず手洗いの徹底で落ち着いた。まだ体力が弱い1・2年生は除外した。
 一人で掃除していた用務員の磯部久さん(51)は校舎内14カ所のトイレを一巡するのに1週間かかったという。児童が毎日掃除するようになり「鏡にしぶきが飛んでいたが、目に見えてきれいになった」と高く評価する。
 では肝心の「公共心の育成」効果は--?
 一足早い「復活」を、上妻優美子校長(54)は「言うならば普通に戻った」と冷静に語る。トイレだから公共心が育つというわけではないが、トイレだけ掃除しないのもおかしい、という理由だ。「まだ効果は分からないが、児童がトイレを汚さなくなったという声もある。長期間続ければ成果が出てくるのでは」と期待する。

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