3月3日12時13分配信 +D Mobile
開発陣に聞く「Walkman Phone, Premier3」:“Walkman Phone”シリーズの第2弾として登場したソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ製の「Walkman Phone, Premier3(プレミアキューブ、以下Premier3)」は、「ミュージックスタイル」「シアタースタイル」「ケータイスタイル」という3つのスタイルにより、音楽や映像サービスの“聴く/観る/拡がる”を満喫できる。
一足先に発売された「Walkman Phone, Xmini」は、“ウォークマンありき”というコンセプトのもと、音楽機能に絞ったモデル。一方、Premier3は音楽機能はもちろん、ワンセグやEZ・FM、おサイフケータイ、GPS、Bluetooth、FMトランスミッター、グローバルパスポートCDMA、319万画素カメラなど、トレンド機能やauの新サービスにももれなく対応する。
Premier3はどのようなコンセプトのもと、どんなターゲット層を想定して開発されたのか。ソニー・エリクソンの開発陣に聞いた。
●Xmini、そして本家ウォークマンとの差別化
ソニー・エリクソンはPremier3やXmini以前も、「ウォークマンケータイ W42S」「ウォークマンケータイ W52S」といった“ウォークマン”の冠を付けたケータイを開発してきた経緯がある。
「ソニー・エリクソンは音楽については認知度のあるメーカーだと自負しています。それに加え、KDDIさんは着うたの文化を立ち上げたので、KDDIさんとソニー・エリクソンでがっぷり四つに組むことで、新しい音楽のユーザー体験を具現化するモデルを作りたいという話をしてきました」と商品企画担当の宮澤氏は話す。その1つとして開発されたのがXminiだ。
Xminiはケータイではなく“ウォークマンとして使えること”を前提として開発されたが、Premier3は逆のアプローチを採り、「ケータイで音楽を楽しむにはどうすべきか」を改めて深く考えたという。その答は「Premier3」という製品名に集約された。
Premier3の「3(キューブ)」は3乗を意味し、3つのスタイルで音楽や映像サービスを楽しむというコンセプトが込められている。当初は「トライフォルムウォークマン」という名称にする案もあったという。
「閉じた状態では音楽プレーヤーとしてすべての音楽操作ができ、横に開くと音楽や映像を観て楽しめます。縦に開くと、(専用の)音楽プレーヤーにはないケータイならではの音楽体験を得られます。つまりその場で着うたフルや着うたフルプラスなどの音楽コンテンツをダウンロードできるわけです。これは本家ウォークマンとの大きな差別化になると考えています」(宮澤氏)
また、W52Sの反省も踏まえ、本体のスピーカーはモノラルを採用し、小型化を優先した。そして「スピーカーを使うのは自宅が多い」(宮澤氏)との考えから、付属の卓上ホルダにステレオスピーカーを搭載した。このほか、2GバイトのmicroSDやリモコンも付属し、BluetoothやFMトランスミッターにも対応する。
「音楽を聴くのは家と外出先、車の中が多い。Premier3なら、この3カ所で音楽を十分楽しめます。付属品を充実させたのも、Premier3でもれなく音楽生活を楽しんでほしいと考えたからです」(宮澤氏)
「Premier」には「デザインの上質感」と「機能の充実」という2つの意味がある。
「Premier3は“ケータイありきのWalkman Phone”なので、ケータイとして高級感のある上質なデザインを目指しました。また、今までケータイでは音楽を聴かなかった人にも音楽を楽しんでほしいという想いがあったので、いかにもミュージックプレーヤーというデザインではなく、ぱっと見て『すごくかっこいい』と思ってもらい、そこから音楽に入ってもらうようアプローチしました。機能も、足りないものはほとんどないと言えるくらい充実させました」(宮澤氏)
製品名をこれまでの「ウォークマンケータイ」から「Walkman Phone」に変えたのは、「高級感のあるデザイン+音楽に特化するため」だという。「W42SとW52Sも音楽機能を訴求しましたが、Walkman Phoneではさらに音楽に特化し、ケータイとしても昇華させたかったから」と宮澤氏は説明する。
また、W42SやW52S、そしてXminiと、これまでのウォークマン系の機種はすべてスライドボディを採用したが、Premier3では「デュアルオープンスタイルの方が今回のコンセプトにふさわしい」(宮澤氏)との考えから、スタイルを変更した。海外向けのウォークマンケータイも含め、ウォークマン系の携帯でデュアルオープンスタイルを採用するのはPremier3が初となる。
●「のり」ではなく「かんぴょう」!?――小型化したヒンジ
Premier3が採用した、ディスプレイが横にも開くシアタースタイルは、2006年に発売された「W44S」を継承したものだ。W44Sは大きく突起したヒンジのインパクトが強烈だったが、Premier3ではヒンジの出っ張りはほとんどなくなり、すっきりした印象になった。機構設計担当の青野氏は、「Premier3のヒンジはぱっと見てもW44Sとは相当違いますが、この形に至るまでには相当苦労しました」と話す。
「W44Sではキー側とディスプレイ側をフレキシブルケーブルでつないでおり、フレキシブルケーブルがヒンジの軸に巻き付く形になります。するとその分だけ軸の直径が増すので、ヒンジ部分が太くなってしまいました。そこでPremier3は、ヒンジの軸の中心に穴を空けて、細線同軸ケーブルを通す仕様にしました」(青野氏)
「のり巻きののり(巻き付いたフレキシブルケーブル)だと太くなるので、かんぴょう(細線同軸ケーブル)を通したと考えると分かりやすいですね(笑)」とデザイナーの鈴木氏は説明する。
「そのほかに、バネの構造を変えることでヒンジ機構自体も小型化しました。ただ、本体内部にヒンジを潜り込ませたので、本体の実装面積と部品を置くスペースが削られます。ここは基板サイズをうまく調整してなんとか収めました」(青野氏)
大幅な小型化に成功したヒンジだが、右側面はわずかに突起している。この出っ張りを完全になくすのは、やはり難しいのだろうか。「ヒンジ自体をものすごく細くすれば可能だとは思います」と青野氏は言うが、見た目を優先してあえてこの形にしたという。
「W44Sのヒンジを見て『何これ、ケータイ?』という(いい意味での)声もあったと思います。そこはデザイン上のアクセントとして残しました」(鈴木氏)
Premier3の形状には、同じく横開きスタイルを採用するドコモの「P-01A」やauの「H001」にはない特徴がある。それは、ダイヤルキーの先端に“逃げ”のスペースを作ったことだ。
「他社さんの(横開き対応)モデルは先端部に(縦開き用ヒンジの)壁がありますが、W44Sと同じくPremier3にはディスプレイ側に縦開き用のヒンジがあるため、この壁がありません。横に開いた状態でキー操作をするときの握りやすさを考えると、ここに逃げのスペースがある方がいいと思います」(鈴木氏)
●ボディ全体の薄型化と配色にも注力
ヒンジだけでなく、どのスタイルでもデザイン的に違和感がなく、持ちやすくなるよう、ボディ全体の小型化にも注力した。「幅、高さ、厚さの3寸法を小さくしたのに加えて角を落とし、より小さく薄く見えて手にしっかりなじむ形を目指しました」と青野氏。しかし、角を削いだ分だけ部品の実装体積が減るので、その中で部品を収めるのは難しくなる。
「バッテリーと基板を並列に置くか、重ねるか、それとも厚くて小さいバッテリーにするか、薄くて大きいバッテリーにするか……など、部品の構成は何パターンも考えました。製品版では、キーに近い部分にメイン基板があり、その上に主な部品を載せています。コネクタ類など長いものも、キーに近いところにまとめました。もう少し薄くできるパターンもありましたが、全体的なサイズのバランスを考え、ベストな構造を選びました」(青野氏)
バッテリーがスペースの多くを占めるボディの裏側は、バッテリーカバーが斜めにスライドするようカットした。そして「斜めにカットすることででき上がった内部の空間に(通信用の)サブアンテナを搭載した」(青野氏)という。
ワンセグのアンテナを完全内蔵タイプにしたことも、ボディの小型化と薄型化に貢献した。プロジェクトマネージャーの田上氏は「ワンセグの特性を考えるとロッドアンテナの方が有利ですが、薄型化を実現するために、ハードルの高い内蔵アンテナにトライしました。もちろん、ロッドアンテナと同等の感度を実現しています」と説明する。
細かいところでは、microSDスロットがサイドキーの間にあるのが珍しい。サイドキーは再生、音量調節、早送り/巻き戻しの5つは必要だったため、最も自然な「音量調節、早送り/巻き戻し」と「再生キー」の間に配置した。スロットのカバーは、ほとんどの機種が採用する縦に開くタイプではなく、360度回転するタイプが使われている。
「通常の(縦に開くタイプの)タイプだと(スロットカバーの)接続部が長く、すぐ近くにバッテリーがあるため、これ以上伸ばせませんでした。ACアダプタのカバーが回転式だと、充電中にプラプラして邪魔になりますが、microSDなら着脱するときだけなので、問題ないと思います」(青野氏)
ボディカラーの配色にも注目したい。本体の表側と裏側のパーツごとに色を変えている機種はあるが、(パーツが表裏の2つのみなので)通常は2色しか使われない。しかしPremier3は表裏に左右を加えた4つのパーツで構成されており、パーツごとに計4色を使っている。
「単に左右のパーツを重ねたただけでは本体が太くなってしまうので、4方向からパーツを組み合わせました。つまりパーツ同士が重なり合う部分がなく、どれか1パーツを取ると、解体されます」と鈴木氏。左右にさらに2色を加えたのは、「本体を閉じたときに帯がぐるっと1周したトラック形状を作りたかったから」だという。
●薄くて押しやすい「ブライトスクウェアキー」
ダイヤルキーやソフトキーには、シート上に正方形のキーを配した「ブライトスクウェアキー」を採用した。
薄型化に注力したケータイにはシートキーがよく使われるが、クリック感がなく操作性では劣る傾向がある。そこでPremier3では、シート上にさらに正方形のキーを乗せたキーを採用し、薄型化と操作性を両立させた。キー自体は小さいが、クリック感があり押しやすい。
「このキーは、サイズや感触別にかなりの数を試作しました。キーはユーザーが一番触る部分なので、薄型化に注力しつつも優先的にスペースを使いました。最終的にはどのキーもクリック感があり押しやすくなりました」と鈴木氏は自信を見せる。
さらに、「各キーの周囲に凹凸を付けてタイル状に区切り、通常のキーと同じ感覚で押せるよう配慮しました」と鈴木氏。ちなみに、タイル状のキー周辺部はダミーなので押しても反応はしない。
本体を閉じた状態からワンタッチでLISMO Playerを起動できる背面のキーは、円形の下半分が窪む独特の形状を採用した。「キーが突起していると誤操作する恐れがあるので、極力フラットにしようと思いました。ただ、フラットすぎると押しにくくなるので、円の窪みの片側だけ押せるよう工夫しました」と鈴木氏は説明する。
●“広く横に”よりも“深く横に”
“Walkman Phone”を満たす基準はやはり「音質」。「本家ウォークマンでも使うクリアオーディオテクノロジーがあるかどうか、これが一番重要です」と宮澤氏は述べる。
「本家ウォークマンの基準をクリアしているか、社内で客観的なテストをもって検査します。最終的に、Premier3は本家と同等の高得点を獲得できました」(田上氏)
ただし、ウォークマンが搭載するノイズキャンセル機能は、「ノイズを拾う回路を入れることでサイズが増してしまうので、技術的なことも含めてまだ達成できていません」と田上氏。ここは次期モデル以降の改善に期待したい。
音質はもちろん、音楽プレーヤーの操作性にもこだわり、LISMO Playerを横向きの全画面で利用できるようになった。ソフトウェア担当の平澤氏は、「ただ横画面にするだけではつまらないので、前後の曲のジャケット写真を表示するようにしました」と話す。
音楽再生画面のビジュアライザーも横画面に対応し、「ガイドを見なくても操作できるよう、視覚と操作感を合わせた画面作りにも注力しました」と平澤氏。待受画面の時計など、GUI(グラフィックユーザーインタフェース)はXminiと同じ部分が多いが、Xminiのように、本体色ごとに色が異なるFlashの待受画面は採用しない。
横画面で操作ができるのは、シアタースタイルで利用できる「ワンセグ、LISMO Player、PCサイトビューアー、静止画撮影、フォトビューアー、音楽付きスライドショー、時計」が基本となる。横専用の待受画面はなく、横画面での文字入力もできない。
「Premier3では音楽や映像など、コンセプトに特化した部分の開発に注力したので、“広く横に”というよりは、“深く横に”使ってもらうことを重視しました。横で文字を入力をするには、QWERTYキーボードが必要だと思います。それよりも、ビューアーとしての操作感を極めた方がいいのかなと」(宮澤氏)
そんな宮澤氏が「隠れお勧め機能」だというのが、横画面でのカメラ操作だ。シアタースタイル時には左端に遊びの部分ができるので左手が固定しやすく、側面にシャッターキーがある。さらにレンズがボディ裏側の中心に近い所にあるので、指で隠れてしまうことも少ない。
そのほか、ソフトウェアで進化したのが「フォトビューアー」だ。「Cyber-shotケータイ S001」と同じく、Premier3のフォトビューアーも、保存した日付順に写真を横1列で表示する「タイムライン表示」に対応する。各日にちの写真を選ぶと、その日の写真が縦に一覧表示するという仕組みだ。
「S001のようにフォトビューアー専用のキーはありませんが、シアタースタイルならメニューの第1階層から呼び出せます。モーションセンサーはありませんが、横で撮影したものは横向きで記録されます」(平澤氏)
よく連絡を取る人やよく使う機能をマップに表示する「MyOriginalMap」は、マップの拡大/縮小表示が可能になったほか、人物のアイコンから直接アドレス帳にアクセスして電話やメールを使えるようになった。ただしメールやLISMO Playerなどの機能アイコンから各機能に飛ぶことはできない。
ケータイアレンジは5種類を内蔵するが、その中の「シンプル」では、メインメニューに本物のジャケット写真を使ったという。「CDのジャケット写真を1枚ずつ作って、それをケースに入れて写真を撮りました。待受画面では机の上にCDが何枚か並んでいるのですが、板の色や木目まで、かなり細かいところまで考えました」と平澤氏はこだわりを明かす。
●Walkman Phoneのこれから
ソニー・エリクソンは、2008年のJ.D. パワー アジア・パシフィックが調査した携帯端末の顧客満足度調査(※)で1位を獲得した。この勢いを加速するように、2008年12月にXmini、2009年2月にPremier3を発売。そして3月にはS001の発売も控えており、端末需要が冷え込む中でも“攻め”の姿勢を崩さない。宮澤氏は顧客満足度1位を獲得できた最も大きな要因として「隅々まで気を遣って作っているから」と分析する。
※2007年8月~2008年7月に発売された携帯電話を購入したユーザー1819人を対象に実施したもの
「ユーザーさんがソニー・エリクソンに期待するものは、ほかのメーカーとは違うところにあると考えます。携帯電話への期待+ソニー・エリクソンブランドへの期待にどう応えるか。この2つの軸がしっかりしていれば、我々にとってもユーザーにとってもいい商品になります」(宮澤氏)
ソニー・エリクソンへの期待とは、「平たく言うと、一風変わったもの、尖ったもの、人とは違うもの」と宮澤氏。それらを具現化した製品の1つが“Walkman Phone”となる。Walkman Phoneの今後のシリーズ化にも期待したいところだ。
「Cyber-shotやウォークマンなどのブランドに象徴されるAV機能は我々の強みです。最終的にはKDDIさんとの話し合いになりますが、我々のロードマップとしてはWalkman Phoneの継続は考えています」と宮澤氏。Xminiのような尖った製品か、それともPremier3のようなハイスペック路線か――Walkman Phoneのさらなる進化に注目したい。