3月16日6時12分配信 河北新報
急激な景気悪化で、製造業などの下請けを担ってきた障害者の就労支援施設に影響が及んでいる。岩手県内では、自動車関連の業務を請け負っていた施設で売り上げが半減したところもあり、「障害者の工賃は安くなり、就労意欲も下がってしまう」と危機感が強い。一方で、景気に左右されない自立経営を模索する動きも広まっている。
トヨタ系の完成車組立工場がある岩手県金ケ崎町。30人の身体障害者らが働く就労継続支援事業所「共伸園」の青木俊悦園長(60)は「ここまで仕事が減るとは思わなかった」と肩を落とした。
施設の売り上げの約7割を、3年前から受注するトヨタ自動車のエンブレムなど塗装部品加工が占める。通所者は生産性を高めるトヨタ流「カイゼン」に取り組むまでになった。昨年まで90万円あった月の売り上げが、年明け以降は40万円以下に落ち込んだ。
現在、通所者の仕事は施設のタイル張り替えが中心。青木園長は「納期を心配するほどの忙しさが一転、4月以降は仕事の当てもない。ここ3年間で8人が企業に就職したが、しばらくそれも期待できない」と訴える。
急速に悪化した環境に、知的障害者ら36人が通う北上市の「北萩寮」の小菅公夫施設長(47)は、通所者の就労意欲への影響を心配する。
施設は自動車部品を梱包(こんぽう)する段ボール組み立てを請け負っているが、受注額は昨年夏の3分の1まで激減した。蓄えを切り崩して、工賃月額約2万3000円は維持しているが、「知的障害者が仕事を学ぶ場が減ってしまい、働く意欲自体が失われることが怖い」(小菅施設長)という。
岩手県が86の障害者就労支援事業所から回答を得たアンケートによると、1月の各事業所の平均売上高は昨年10月比で25%減、一人当たり平均工賃も9%減って1万5484円となった。
農業生産が少ない時季であることも背景にあるが、障害者の自立を促そうと工賃倍増計画を掲げる県にとって「かなり心配な状況」(担当者)。2月から県庁各部局で施設への発注を増やしたり、製品を購入したりする支援を始めた。
不況を自力で乗り切ろうとする動きも出ている。北萩寮は地場産大豆を使った「手作り納豆」の生産販売で、1月から近所に売り歩く「宅配事業」を始めた。玄関にクーラーボックスを置いて定期的に届けており、既に販路として約20戸を開拓するなど好評という。
県の調査では、県内施設の約3割が食品加工の自社生産を増やすなど作業品目の見直しを進めている。県は「こういう時こそ経営体質を改善するチャンスととらえてほしい」(障がい保健福祉課)と話している。