【地下街、今や「原点」の3軒に】
文化施設の廃止問題で揺れる大津市京町3丁目の滋賀会館地下で、花谷泰良さん(65)は30年、お客さんの髪を整えてきた。父親の代から続く滋賀会館理髪室。かつて結婚式場や図書館、商店が並んだ会館は、地域の生活を支える場でもあった。しかし、地下街の店は今や3軒。「仕方ないんかなぁ」。時の流れを見つめつつ、「でもやめられない。お客さんに迷惑かけられん」と、はさみを動かす。(新井正之)
【父親から店引き継ぎ30年/散髪屋さんの憂い】
「会館ができるまで、店は県庁の1階にあって、父が職員や議員さんの頭を刈っていた。会館が建ち、結婚式場ができるというので、まず理髪店、美容店、写真店の3軒が地下街に入ったんです。」
滋賀会館は1954年に開館。約1100席の大ホールでは数多くの芸術文化イベントが催され、図書館や結婚式場などもあった。
開館当時の地下街は露店のように店が並び、狭い通路に人があふれるようなにぎわい。ネクタイ買って、散髪して、ついでに写真を撮って。そんなお客さんの流れがあったねぇ。その後、各店がブースに収まる形になり、何となくお客さんがのぞきにくくなった気がします。
父から店を継いだのが30年前。そのころは県庁の職員も昼休みに来てたけど、今は減りましたねぇ。
びわ湖ホールなど新たな文化施設が増え、舞台が狭く音響でも引けを取る会館大ホールの利用は減少。耐震強度の問題も加わり、08年秋に閉鎖された。地下街も07年に飲食店が消え、08年には花屋や魚屋など4店が店を閉めた。
みんな突然、『来月で出ていくわ』とあいさつに来られて。「えーっ」と驚いてばかり。残ったのは最初から入っている3軒。原点に戻ったってとこです。
県は今年度で会館を廃止する方針を打ち出した。廃止の対象はシネマホールなどの文化施設。商店はまだ営業を続けられる。会館の活性化策が決まった時点で方針を検討するとしている。
去年3月、店の1年更新をした時、県の担当者から「このままいて結構」と言われてます。「出るときは言うべきこと言わな」というお客さんもいますけど、建物が古くなったのは仕方ないかなぁ、とも思うし・・・・。
会館の活用、再生を求め、芸術・文化関係者らが署名活動を始めた。耐震工事をして大ホールを復活させ、ダンスの稽古場やアトリエ、古本図書館、地下街には民謡酒場やラーメン横町を設けた「にぎわい創造センター」にしようと提案する。
中高年の人向けにスポーツができる施設があってもいいなぁと思うし、誰もが集まるような会館になったら。
体がしんどくて、昨年末も点滴打って仕事してました。常連さんが9割。帰りがけに次の予約をされるので、急なお客さんは断るくらい予約がいっぱい。「店やめたら、わしら『散髪浪人』になるやんか」と言うお客さんには、「死ぬまで仕事せんといかんのか」と言い返してます。でも、来てくれるお客さんにご迷惑をかけるわけにはいきませんから。
【にぎわい創造センター案/3万4千人賛成署名】
県議会で継続審査になっている滋賀会館(大津市京町3丁目)の廃止問題で、県内の文化関係者らでつくる「滋賀会館の再生を願う会」は28日、現在の建物を改修し「(仮称)にぎわい創造センター滋賀会館」として再生させるアイデアを嘉田由紀子知事に提案。提案に賛成する3万4千人分の署名簿も出した。
提案は、築55年が経過した建物を「独特のカーブをした壁面を含め、全体が信楽焼のタイルで文化財的価値がある。地域の資産だ」と評価。「耐震工事に5億円、壊すにも5億円かかると言われるが壊したら何も残らない」とし、県庁前のにぎわいを取り戻す「新たな文化発信地」を目指そうと呼びかけた。
一方、県はこの日、文化施設としての用途廃止を決めた経過についての説明会を来月9日に開くと発表した。廃止の決定にあたり「県民との対話不足」を指摘されているためで、県の県民文化生活部長らが出席し参加者と意見交換する。
説明会は、滋賀会館4階の文化実習教室で午後3時から4時半まで。参加希望者は来月4日までに、住所と名前、電話番号を記し、県民文化課(FAX077・528・4960)へ事前に申し込む。