銭湯のファンがその魅力を発信する動きが目立っている。レトロ感にひかれた若い女性たちの老舗巡りや、湯船のある風景を描いたアート展、今年は「銭湯検定」も始まった。
銭湯復権の兆しか……。10月10日は銭湯の日。(古岡三枝子)
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今月20日午前10時半、京都・三条大橋近くの「柳湯」に、20~30歳代を中心にした女性30人が集まった。東京、大阪、京都などから駆けつけた。
「すご~い」「かわいい~」。女性たちは歓声を上げ、昭和初期の木造建物内を歩き回った。大きなタイル絵は平安神宮で、浴槽の底に敷き詰められたタイルにはカニや貝の形もある。タイル職人の仕事ぶりを、携帯電話やデジタルカメラで写真に撮った。企画したのは、2007年から東京で「暮らしに銭湯を。」をテーマに銭湯巡りをする女性グループ「湯のたしなみ」。今回は初の関西入りだ。
参加者たちは、脱衣場に敷かれたむしろの上でコーヒーやスイーツを楽しみ、経営者の話を聞いた後、全員で湯船へ。主宰する会社員、宇佐川雅美さん(33)は「ゆったりとつかれば、心も体も温かくなる。銭湯の魅力を知ってもらい、仲間である“銭友”を増やしていきたい」。営業時間前の約5時間を借り切ったイベントだった。
若い世代が銭湯にひかれる理由は様々。建築自体への関心もあれば、大きな湯船という気持ちよさ、常連客らとのおしゃべりの楽しさなど。ファンの思いはいずれも熱い。
会社員や学生ら約150人によるグループ「銭湯文化サポーターS’」(大阪市)はブログで各地の銭湯情報を交換し、営業終了後にボランティアで銭湯の掃除をしている。
昨年、大阪市内で国の登録有形文化財だった銭湯が廃業。解体前に開かれた見学会に全国からファンが集まり、グループの結成となった。今月からはメンバーが銭湯の風景を描いたイラストなどを、大阪、兵庫の6か所の銭湯で巡回展示している。代表で漫画家のラッキー植松さん(49)は「一緒に風呂に入れば、地位も職業も関係ない。誰でも集まることができる地域の財産、銭湯をなくしたくない」と意気込む。
10月10日には東京・新宿でトークイベント「東京銭湯ナイト」が開かれる。銭湯内に富士山などを描く、現役では2人しかいないペンキ絵師を招く。
銭湯検定も始まった。社団法人「日本銭湯文化協会」(東京)が主催し、日本独自の庶民文化の歴史や香りを知ってもらう。基本の4級の試験には約600人が挑戦。合格者を対象にした3級試験は11月に行われる。
検定の問題を手がけ、全国3000軒以上の銭湯を巡った庶民文化研究家の町田忍さんは「ファンの最近の動きは客同士の情報交換や交流というかつての銭湯のにぎわいを呼び戻すきっかけになるだろう。ただ、銭湯を守っていくには、イベント参加に加え、実際に湯につかることをお忘れなく」と指摘する。