雑誌や不動産会社の調査で「東京で住みたい街ナンバーワン」といわれる吉祥寺(武蔵野市)でも、工夫次第で抑えめの価格で快適に住むことができるかも――。英国の生活や住宅事情などの著書が多い雑誌編集長の井形慶子さんが、500万円で手に入れた老朽マンションを改装した体験記を本にまとめた。(菅野みゆき)
井形さんはこれまでに1千万円台で英国風の自宅を吉祥寺に新築し、家について考える著書も多い。今回は「老朽マンションの奇跡」(新潮社、税別1500円)にまとめた。
今回は撮影スタジオ兼倉庫兼社員の住宅として、08年秋に低層マンションの1部屋を購入。駅徒歩8分、築35年、メゾネット式、借地権付きの45平方メートルだった。建築当初は近代的な建物だったようだが、壁や床は黒ずみ、流し台はさびだらけ、浴室のガス給湯器は巨大で、排水管にも不安があった。
だが、ゆったりとした空間や風通しの良さ、窓から見える吉祥寺の風景などが気に入ったという。この物件を500万円で手に入れ、改装を始めた。
まず、日頃つきあいのある不動産業者の紹介で老朽物件の経験豊富なリフォーム業者を選んだ。床材や壁紙は一番安いものを選び、システムキッチンは展示品を探してもらい、費用を200万円に抑えた。照明やエアコンは自分で買って持ち込んだ。一方で、模造暖炉を壁にあしらったり、台所もれんがのタイルを使うなどして英国風の雰囲気を出すにことにだわった。
とはいえ、老朽化が激しい共同住宅。工事開始後も、排水管が使えなかったり、湿気を吸ってなかなか浴室のモルタルが乾かなかったり、次々と問題が発生。だが、井形さんは解決のために業者と話し合う努力を惜しまず、09年春に理想の部屋を作り上げた。
改装には手間や費用の心配もつきまとう。また、耐震基準を満たした物件かどうかも見極めないと危ない。
「デフレ時代のいま、住みたい街をあきらめていた人には好機」という井形さんだが、「老朽物件を自分の思い通りに変えることが楽しいと思える人でないと無理。地元で評判がよく、物件を購入する時に一緒に見てくれるような業者を選ぶことが重要です」とアドバイスもしている。