かつてニューヨーク・マンハッタンのピザ好きは、区をまたいでブルックリンの有名ピザ店「ルカリ」「グリマルディーズ」「ディ・ファラ」までわざわざ足を運んだものだ。
しかし、マンハッタン・イーストビレッジの「ウナ・ピッツァ・ナポレターナ」に替わって開店した「モトリノ」は最高だ。わざわざブルックリンに出向く必要はなくなった。値段は9ドル(約800円)からせいぜい17ドルまで。小ぶりだが、ブルックリンの有名店と比べて勝るとも劣らないおいしさで、カード払いも可能だ。
別にブルックリンのピザをけなすわけではなく、地元においしい店ができてうれしいと言うにすぎない。ただ、モトリノはブルックリンのピザ店に比べると接客態度が良い。
スズを使った天井とタイル張りの床は、ピザ店というよりカジュアルレストランの雰囲気。小さな四角い店内に通路が1つ、そしてウナ・ピッツァから引き継いだ飛び切り上等なオーブンが、半生タイプのピザ作りに活躍している。
ブルックリンのピザ店では、つまみがアンティパスト(前菜)とカルツォーネ(包み焼きピザ)くらいしかないが、こちらは豊富にそろっている。タコのサラダはやわらかくてボリューム満点。ガーリック風味のトマトサラダにはポテトチップと新鮮な果物が添えられている。厚切りモッツァレラチーズのローストは揚げたソーセージより気が利いている。
ワインも楽しめる。ワインリストはマスターソムリエのフレッド・デックスハイマー氏が作成する。マスターソムリエがいるピザ店が他にあるだろうか。ミディアムボディのスーパー・ピエモンテ・ブレンド「ラ・スピネッタ」(60ドル)を注文すると、ウエートレスがデキャンタに移してくれた。
とにかくモトリノのピザは抜群だ。独特の手さばきでナポリ風ピザ生地を打つのはベルギー生まれのマシュー・パロンビノ氏。ニューヨークの有名レストラン「ブーリー」で長年シェフを務めた経歴の持ち主だ。彼のピザは一切れ手にとってもほとんどしならないほどカリッとしている。
ベーシックなマルガリータ(14ドル)は、脂肪分の多い水牛のモッツァレラとほどよい酸味のトマトの取り合わせが最高。これぞマルガリータという感じだ。メキャベツやパンチェッタ、チリ味の利いたピリ辛サラミの乗ったピザはさらにおいしい。
私の中でピザは「立って食べるもの」という基本前提がある。だからニューヨークの折りたためるスライスピザは大のお気に入り。モトリノのピザ「ア・リブレット」は丸ごと折りたためる優れものだ。
あとはブルックリンのピザ店に倣って、カクテルやブランチを始めてくれたら言うことはない。
ここでブルックリンの有名店情報をお伝えしよう。
ルカリ ピザ2枚とカルツォーネ1個で86ドル。エシャロット、ピーマン、アーティチョークのピザは33ドル。質は良いが、極上とまではいかない。クラッカーのような食感の生地はローマ風ピザに似ているものの、そこまで薄くはない。生バジルが利いていて、質よりもチーズとトマトの溶け合った心地良い食感が取りえ。
グリマルディーズ ブルックリン橋の真下に位置。順番待ちリストはないので店外の列に並ぶことになる。炭火焼きの生地だが、モトリノのスポンジのようなふわっとした食感はない。トマトはしけったガーリックソルトをかけたような味だった。モッツァレラも熱気で乾燥していたが、12ドルという安い値段の割には十分食べられる。
ディ・ファラ 5ドルの一切れを食べるための待ち時間が2時間といわれた。外で待つ男たちがたばこをふかしながら文句をたれていた。