新幹線つばさ 新庄延伸10年(上)

∞芽生えた客迎える心

 JR山形新幹線つばさの新庄延伸が4日で10周年を迎える。地域活性化の期待を一身に背負った新幹線だったが、関連事業への巨額の負担は、不況の進行と相まって地域財政を圧迫し続けた。企業や観光客の誘致に一定の成果はあったが、地域経済を押し上げるまでにはなっていない。終着駅新庄と最上地方の10年を振り返る。

 「まさか実現するとは思わなかった」。新庄市長の山尾順紀(57)は、まだ市職員だった15年ほど前、県知事サイドから漏れ伝わってきた延伸話を耳にしたときのことを、そう振り返る。

 その後退職し、市議から一昨年10月、市長に。財政再建のために給料の5割減を選挙公約に掲げた。昨年1年間の給与は575万円だ。

 それでも、山尾は言う。

 「新幹線がなかったら、新庄はもっと取り残されていただろう。借金返済で苦労しても、他の地域の人から見れば、新幹線がある新庄は、夢の世界だ」
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 新庄駅に併設された総面積5100平方メートル、鉄骨2階建て全面ガラス張りの最上広域交流センター「ゆめりあ」は延伸の象徴だ。総工費61億円で、市が22億円を負担。西口中央広場(3億円)、東口交通広場(18億円)など関連事業費は合計230億円に上り、そのうちの37億円も市が負担した。

 小学校改築工事や市民球場建設、広域事務組合のし尿処理場、廃棄物最終処分場建設などの大型公共工事も重なり、市の財政は危機的状況に陥った。さらに景気後退で、50億ほどあった税収入は06年度43億円に急減。03年度57億あった地方交付金も07年度は50億円に減った。

 とうとう04年度に一般会計予算が組めなくなった。だが、そこから取り組んだ財政再建は成果を上げつつある。

 新規の大型事業はせず、特別職報酬カットや一般職の期末手当、管理職手当のカットなど5年間で人件費計15億2200万円減と、計画(9億2800万円減)を6億円も上回った。市債残高もピーク(00年)の388億円から08年は293億に。ゆめりあなど延伸関連事業費の償還もほぼ終えた。山尾は「財政危機は乗り越えた」と力を込める。
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 予算に占める必要経費の割合を表す経常収支比率は99・2%(08年決算)で、使い道が自由なカネは0・8%だけだが、少ない予算で効果を上げる方法も考えられてきた。

 06年に始まった「協働企画提案制度」もその一つ。財政再建計画で既成団体への補助金がほとんど打ち切られた中、市民に芽生えた新たな取り組みを支援する試みだ。総枠30万円ほどの補助金の分配を市民から選ばれた評価委員が審査する。事業採択をめざして応募した団体は、公開の場で自らの活動をプレゼンテーションしてアピールする。

 職員一人ひとりが、受け持ち区域を持って市民活動の世話をする「地域担当制」も定着しつつある。
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 JR新庄駅西口の駅前通り商店街。6年かけた町並み整備事業は、この夏完了した。電線は地中化され、カラータイルの融雪歩道に民話をイメージした街灯やオブジェが並ぶ。

 だがこの10年で、商店数は120から3分の2の80に。一昨年から商店街協同組合の理事長を務める茅野博(55)は「わずかではあっても、新幹線で観光客が増えたのは事実。でも、迎え入れる努力をしなかった」と自戒を込めて言う。「まずは話しかける。迎え入れる気持ちが大切。そして他の観光地と同じことをしていてはダメ。観光資源がなければ、ないなりの売り方があるはず」と力説する。

 茅野ら組合役員はいま、先頭に立って、新庄駅前で観光客に声をかけている。「ワインのおいしい店がありますよ」「おそばなら、あの店とこの店」「手作り納豆の店もあります」――。首から下げた顔写真入りの「道案内人の証」が目印だ。=敬称略
(三浦亘)

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