土間・かまど 農家の温かさ/上矢田公民館

瓦屋根に木の戸、壁。たたずまいに趣がある。1階は広々とした土間。今ではそうお目にかからないタイル製のかまども据え付けられている。ひと昔前の農家のような和建築特有の温かみも漂う。それも道理。上矢田公民館(山口市大内矢田)は、集会場兼農家の作業場として、半世紀以上前の1952年にできた建物なのだ。

  公民館は終戦後、地域の社会教育を担うべくつくられた公的施設のイメージが強い。上矢田公民館は完全に民間主導。若衆ら地元の人々が手弁当、手作りで築いた。寄る辺が必要だったからだ。それまではお寺で寄り合っていた。

  公民館ができて間もない頃は、農は集落で担い、手仕事が基本だった。土間では人々がわらをない、米俵やむしろをこしらえた。田植えなどの繁忙期には、かまどでみんなのおかずをこしらえ、それぞれの家庭に持ち帰った。戦後が遠くなるにつれ、農の機械化が進むと、そうした手仕事の風景はいつしか消えた。でも、老若男女はそれからも、そこに集まった。

  土間の隅には、少し色あせた木製の卓球台が置かれている。これも大人たちが手作りした。地元の自治会長、溝部一博さん(69)は、子供たちがそれで遊んでいたことを覚えている。テレビのない時代には映画上映会も行われた。

  2階は畳の間。鴨居(かもい)が低く、昔の家特有の味わいがある。集会場として多目的に使われ、結婚式もあった。開館以来、長寿の人たちをみんなで祝っていたらしく、部屋には明治生まれの人々の名前がずらり並んだ額も飾られている。

  そうした人々も多くは鬼籍に入った。県道沿いにあり、まわりには郊外型の大きなスーパー、飲食店が立ち並ぶ。そんな風景に上矢田公民館はやはり目立つ。山口市立の公民館は今年から、「地域交流センター」なる名前に変わった。時は滔々(とうとう)と流れるけれど、変わらないものもある。
(清水謙司)

□■ 上矢田公民館 ■□
  山口市大内矢田地区にある。同市と防府市を結ぶ県道沿いに建つ。今でも大正琴の教室などに使われており、地元の人たちが運営、管理している。

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