伝統工芸解除 このまま消え去るのは…

 福岡県広川町の歩道には、特産の巨峰の絵と並び、県指定伝統的工芸品の広川下駄(げた)をアピールするげたの絵が描かれたカラータイルがはめ込まれている。

 広川町のある八女地方は森林が多く、昔から木工業が盛んな土地柄だった。なかでも広川下駄は軽くて弾力性のあるキリを使い、履き心地が良い高級げたとして全国に名をはせていた。

 ところが県による初の実態調査で、県指定35品のうち、広川下駄と福岡市の博多絞、北九州市の手吹きガラス、直方市の筑前ブンブン凧(たこ)の4品が後継者不在で生産されていないことが判明した。県は「指定品として紹介し続ければ誤解を招く」と近く指定を解除するという。

 博多絞は木綿と絹の絞り染めで、鹿子(かのこ)などの文様を多彩に施した伝統的な手作りによる手染めである。手吹きガラスは、アメのように溶けたガラスを吹きざおに巻き取り、花瓶などのガラス製品を作り出す。筑前ブンブン凧は、青竹でしっかりと骨組みを作り、その上から歌舞伎の役者絵などを描いたものだ。

 それぞれ国内外から高い評価を得ていたが、県が昨年夏から地元商工会などに聞き取り調査した結果、職人の引退で数年から10年以上前、生産されなくなっていた。生活様式の変化で製品が売れなくなったことが影響しているという。

 伝統的工芸品は、1974年に伝統的工芸品産業振興法が制定されて国の指定制度が始まったのを機に、都道府県でも広がった。九州でも大分県を除く6県が導入し、現在、計195品が指定されているが、国のように後継者育成などに財政支援をする都道府県は少ない。

 福岡県は県庁内での展示や観光パンフレットへの掲載をしているが、財政的な支援はない。継承を目的に経済的支援をしている宮崎県でも、日向焼など生産が途絶えた指定品がある。しかし、指定解除はせずに情報発信を続け、後継者が出てくるのを待つという。

 ただ、国指定品211品を見ても、2006年度の従事者は計9万3400人で、約30年前の3分の1に減った。30歳未満の比率も28・6%から6・1%に下がるなど、伝統工芸界は後継者不足と高齢化が進行して厳しい状況にある。

 それにしても、福岡県の「途絶えたから指定解除」という姿勢は、あまりにも冷淡すぎるのではないか。宮崎県のように何らかの形で技術を紹介し続けるなどして、復活を待ってもいいはずだ。

 「温故知新」という。その地で生まれた工芸品には、ものづくりの技術にとどまらず、その土地ならではの知恵がいっぱい詰まっている。古いものを大切にする中で、新しい発想も生まれてくる。

 地域文化が各地で見直され、日本的な暮らしや「ものづくり」が内外で再評価されている時でもある。地域に受け継がれてきた「伝統の技」がこのまま消え去るのは、やはりもったいない。

=2009/12/28付 西日本新聞朝刊=

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